先日、勧められて「彼方のアストラ」という漫画を読了した。
ジャンプ+という漫画アプリで2016年から2017年に連載していた篠原健太先生の作品。学校行事で惑星キャンプに向かった男女の若者9人が遭難してしまい、無事生還するまでを描いたSF漫画ね。
とても人気の作品で「次にくるマンガ大賞」や「このマンガがすごい!」等の賞を受賞していて、特に伏線回収や急展開が評価されている。確かコミックスの帯にも「鳥肌ものの伏線回収」という謳い文句を載せるほどだったはず。
そんな本作の個人的な魅力というか感想というか、書き出してみる。
惑星単位で築かれる生態系
個人的には旅先の惑星での生態系描写についても楽しみの一つ。動物園や水族館に今でも頻繁に行くぐらい生き物好きな自分は架空の生物も大好物でそれらがメインで出てくる作品もよく観ている(最近だと今更ながら映画のエイリアンを1~4までprime videoで一気観した)。
彼方のアストラは舞台となる惑星が複数あるのでそんな生物たちがわんさか出てくる。だけでなく、生物そのものというより「惑星の環境」として描かれることが主だ。特殊な形態や生態だけでなく、繁殖方法や食性といった「その星の生態系がどのように回っているか」を描いてくれているところがワクワクを引き出す要因だったりする。このように「個」としてだけでなく他のとの「関係性」まで含めて描いてくれることで現実味が増すというか、「実際にこんな生き物や生態系を持つ星があるのかもなぁ」と思わせてくれる。そんなことを考えていると心が踊るのよ!!
ある意味SFの根源的な魅力とも言えるかもしれない。
少し話がズレるけどガチの生物学者が設定を練りに練って書いた鼻を使って歩く生物群について書かれた「鼻行類」とかもいずれ読んでみたい。
親身になれるキャラ造形、描写
実は、ミステリー以上にキャラが重要だったりする。
前述した通り彼方のアストラは伏線回収や急展開による話運びが評価される声が多い。実際、読んでいる間は次の展開を予測して、それが当たって喜んで、外れたら外れたで膝を打ち、そのストーリーには非常に楽しませてもらった。
でも、最終的に読み終えて憶えた感想としてはミステリーを楽しんだ後のそれというよりは純粋に旅が終わった後の余韻や彼らの結末を心から喜ぶ親か親友の気持ちだったのよね。
それって思い入れられる、共感できるキャラだったからなのかなって。例えば、主人公のカナタ。みんなを引っ張るリーダー的な存在。身体能力は抜群で決断力に長けているが、少し抜けているところもあり、そこを他の仲間にツッコまれることも多々見られる。まあよくある主人公像ではあるけどその”とっつきやすさ”が伺える。好きにさせてくれる。
キャラの魅力については日常描写の中でも溢れている。物語の本筋こそシリアスではあるものの、彼らはサバイバルを楽しんだり、ボケとツッコミのあるやり取りが程よく空気を和ませる。こういうメリハリの効いた作劇自体が好印象。彼方のアストラではそんなコメディ要素にも重点を置かれている。本編の合間に更新される遭難中の彼らの日常を切り取った「4コマ船内日誌」、衝撃の展開がひと段落した後にそれをネタにしていくスタイル、それら全てが「こいつら好きだなぁ」「こんなやりとり見たいなぁ」と思わせてくれる。
そりゃあね、勝手に親近感も憶えるわって話なんすよ。
身内のことだもの ※うっすらネタバレ有り?
上記で述べた通り、彼方のアストラはキャラ造形、描写も優れていたってことなんだけど。
だからこそ、シリアスな怒涛の展開に思っきし感情移入できたのよね。
カナタたちは遭難に見せかけて抹殺されかけて、自分たちや母星の真実を知ってショックを受けたり、「刺客が何故こんなことをするのか」で悩まされたり、後半は特に衝撃展開の連続だった。これらが爆発的に盛り上がったのは伏線回収や展開そのものへの驚きももちろん貢献している。でもそれだけじゃなくてカナタたちが自分たちにとって身内のような感覚があったからこそなんじゃないかって。
見ず知らずの人の幸不幸はそれなり「良かったね」「残念だったね」ぐらいには思うかもしれないけど、それが自分の家族ないし友人のことだったら「やったやん!!!!!」「え……それはしんどいわ……」って反応も大きく変わってくるじゃない?
ここまで積み上げてきたキャラクターの蓄積がよりミステリー要素を引き立てているってことなんだろうなぁ。
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